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最高裁判所大法廷 昭和22年(れ)341号 判決 1948年12月22日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人馬淵分也の上告趣意第一點について。

論旨は、要するに原判決が被告人の自白を唯一の證據として判示事実を認定したことが、憲法第三八條、刑訴應急措置法第一〇條各第三項に違反するというに歸する。しかし本上告は、第一審の判決に對してなされたいわゆる飛躍上告であって、かかる上告は、刑事訴訟法第四一六條により刑の廢止若しくは變更又は大赦のあったことを理由とする外「判決ニ依リ定リタル被告事件ノ事実ニ付法令ヲ適用セス又ハ不當ニ法令ヲ適用シタルコトヲ理由トスルトキ」でなければなすことを得ないものである。論旨は、右の何れの場合にも該當しないから、適法な上告理由とならない。

同第二點について。

しかし、裁判所は所論のごとく、法令に對する憲法審査權を有し、若し或る法令の全部又は一部が憲法に適合しないと認めるときは、これを無効とし、その適用を拒否し得るものであると共に、有罪の言渡をなすには、その理由において必ず法令の適用を示すべき義務あるものであるから、當事者において、或る法令が憲法に適合しない旨の主張をした場合に、裁判所が有罪判決の理由中にその法令の適用を擧示したときは、すなわち、その法令は憲法に適合するとの判斷を示したものに外ならないと見るを相當する。それ故原審における所論の主張に對して、特に憲法に適合する旨の判斷を積極的に表明しなかったからと言って、所論のように判斷を示さなかった違法ありとは云えない。從って、本論旨はいずれもその理由がない。なお食糧管理法が憲法第二五條に違反するものでないことは、既に當裁判所の判例の示すとおりである。(昭和二三年(れ)第二〇五號事件、同年九月二九日言渡大法廷判決参照)

同第三點について。

論旨は、原審が辯護人のした證據申請を却下して事実の認定をしたことを以て、審理不盡、理由不備の違法にあたるというにある。しかし、かような主張は、刑事訴訟法第四一六條の規定する何れの場合にも該當しないから、上記第一點において述べたと同じ理由により、飛躍上告適法の理由となり得ない。(その他の判決理由は省略する。)

上告趣意第一點及び第三點についての理由に關し、裁判官真野毅の少数意見は、次のとおりである。

本件は、いわゆる飛躍上告事件である。刑訴第四一六條第一號によれば、「判決により定りたる被告事件の事実に付、法令を適用せず、又は不當に法令を適用したることを理由とするとき」においては、區裁判所又は地方裁判所においてした第一審の判決に對し控訴をしないで上告をすることができる。それは、第一審裁判所が認定した事実そのものについては別段異議はないが、ただその事実に對して適用すべき法令を適用しなかったとか、又は適用すべからざる法令を不當に適用したとかについてのみ異議があることがある。かかる場合には、単に法令の適用の當否だけを爭うのであるから、控訴審の一段階を飛び越えて直ちに法律審である上告裁判所え上告してその法律判斷を受け得ることの方が、當事者の便宜から言っても、控訴經濟の上から言っても、好ましく適當であると言わなければならぬ。これが、前記法條で飛躍上告の認められている立法趣旨である。されば、この飛躍上告の上告理由は、本質上法令適用の當否の點だけに限定せらるべきであって、事実關係は、確定不動のものとして爭うことを許されないのである。所論は、前記法條に「被告事件の事実に付不當に法令を適用したること」とある中には、「被告事件の事実認定につき不當に法令を適用したること」をも含むものと解したもののごとくである。成程法文を形において卒然として讀めば、さように讀み違い易い點がないこともない。他にも時々同じ様な事例が起る。しかし、これはその立法趣旨を理解しないことに基くものであって、その誤りであることは、まさに前述のとおりである。だから、論旨のように、事実認定又はその前提たる證據の取捨若しくは證人申請の却下に對する非難攻撃を加えることは、何れも飛躍上告適法の理由とはならない。多數説は、單に論旨が、刑訴第四一六條に掲げる何れの場合にも當らない、というだけの理由を述べているに過ぎない。これは、間違ってはいないが、あまりにも漠然とした一般的、抽象的な判示の仕方であって、焦點がピツタリ論旨に合っていない感がする。判決は、特殊的、具體的な上告趣意を對象とする判斷であるから、當然の歸結として十分特殊性、具體性をそなえた的確な判示をすることが、正しく、厳しい判決態度--これは從來あまり論ぜられていないが、非常に根本的な重大な問題である--であらねばならぬ、とわたくしは平素から確信している。たまたまこの機會に少數意見に託して所懐の一端を述べたまでのことである。)

よって刑事訴訟法第四四六條により、主文のとおり判決する。

以上は理由に關する少數意見を除き、裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)

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